IR Magazineからの抜粋:
投資家との良好な関係構築ための前提条件は、株主が誰なのかを知ることです。理想的な透明性の高い世界であれば、企業と投資家はお互い株主総会、コーポレートアクションや直接のコミュニケーションルートでやりとりすることができます。しかし現実には、株式のカストディーモデルに組み込まれた大規模機関投資家の株式保有を解明するためには、非常に複雑なプロセスが必要になります。そして多くの国では、この困難な作業を支える法律がほとんどありません。
透明性を高める試みは、1970年代の米国で13F申告が導入され、ファンドが四半期ごとに株式保有状況を開示することに始まります。その後、このデータはEdgerレポジトリーで公開され、BloombergやThomson Reuterといったところで再パッケージ化されます。
このシステムには、いくつかの欠陥があると在ロンドンのアドバイザー会社であるCMi2iのMark Simms社長は指摘しています。とりわけファンドにとっては、保有状況が企業のみならず競合する他ファンドにも知られてしまうことに不満を持っています。申告後45日までに出されるステートメントは、特にファンドの売買が活発な場合、たいていは古い情報です。更に、海外株式については普通株式のみを対象とする四半期や、ADRを対象とする四半期があるなど申告方法にばらつきがあります。米国の発行体が株主が誰なのかを知るために苦心しているなかで、発行体が非米国企業である場合にはさらに複雑さを増します。
だからこそ、この分野でのサービス提供者の大半は、高度な地域専門性を有しています。「株主登録の状況と地域ごとの株式所有パターンに関する深い知識―それはどこに本当の株主がいるかを知ることを含みます-によって、開示が不十分な市場で効果的な株主判明調査を行うために必要な情報の90%を得ることができます」と、ニューヨークに拠点を置きアジアの企業を多くカバーするLSグローバルのルーカス シアー社長は述べています。「短期的で効果的な調査を行い、コンタクトすべき適切な機関投資家を見出すことで安心感が得られます」。
1980年代半ばに英国で制定され、約数十か国で複製された英国の法律は完全な開示を義務付けており、株式発行会社に対して誰が会社の受益者であるかを知ることのできる法的な権利が付与されています。問題はどのような形態で株式が保有されているかである、とシムズ氏は解説します。
企業の株主登録名簿に登録されていると思われているのはノミニー名義であり、通常はカストディアンが機関投資家に代わって株式を保有します。グローバルカストディアンは4000から5000のファンドを顧客としており、例えば保有する株式が何か、口座はどれかといった最低限の情報以上を開示する義務を負っていません。時には単にコードの形でしか開示しない場合もあります。その名義はファンドでさえなく、全く異なる何層にも重なるカストディの一形態であるかもしれません。」とシムズ氏は警告します。
カストディの階層を見てみても、特定されたファンドは数多くの異なるファンドから構成されるプール口座、指定口座やまたは一対一口座かもしれません。「例えば、資金が内部で管理されている英国航空の年金ファンドでは、英国航空が受益保有者と言えるでしょう。」とシムズ氏は述べます。「オランダの年金ファンドのAPGでは、資金の一部は複数の外部運用者で運用されています。この場合、APGは投資の意思決定者ではないためAPGとやりとりしても意味がありません。」
同様に、議決権がどこに送られたかを明確にすることも困難です。「議決権は受益保有者、資産運用者、または複数管理ファンドに送られることがあります。」とシムズ氏は述べています。「議決権は差金決済取引で貸し出されることがあり、プロップデスクやプライムブローカー口座に紐づけられることもあります。このため複雑な階層を解明するマッピングテーブルを作らなければなりません。」
株主判明が終了したならば、その情報はクリアリングハウスやカストディの階層を経て、議決権のリストもしくは株主登録簿と照合する必要があります。これは長いプロセスになりますが、少なくとも法的な枠組でサポートされるという利点があります。しかし、「もしも米国企業であればこのようなことはできません」と、シムズ氏は指摘します。
多くのアドバイザー会社は、単純なプロセスを辿って分析を行う機械的な手法を取ります。「我々はカストディアンが対応し易いようにしています。」とグローバルに展開するIRコンサルタント会社であるOrient CapitalのAlison Owers社長は解説します。「情報の精度を上げることは、我々にはそれに対応する手法があるので問題ではありません。我々にとって課題があるとすれば、それは需要です。だからこそ品質の維持に意を払っているのです。業界にとっての課題は、カストディアンが法令遵守できるよう保証することです」。